珊瑚彫金(サンゴ彫金)


珊瑚アートジュエリー仙頭実千恵の彫金と珊瑚工房
  右に掲載する作品は、1993年の第1回国際珊瑚デザインコンテストで入賞の後、珊瑚博物館様(高知県土佐清水市竜串)にお買上げ頂いたものです。
  本作品は、深海珊瑚の大きな枝を大胆にトップに配し、蜜蝋(みつろう)が生む細かい縞模様の金をウェーブ状にあしらってネックレスに仕上げたものです。従来の珊瑚製品におけるデザインの概念にとらわれず、珊瑚本来の姿を表現の主体的なモチーフに取り上げてデザインいたしました。
  本作品に見られるように、珊瑚彫金では、珊瑚本来の魅力をもっとも大事にしています。

美の解釈 

  私たちには、本能的に自然へ回帰しようとする心があります。それは、普遍的な美の要素が、自然に存在するからです。人は美を見て、美に触れ、美を身につけ、美に囲まれて安らぎを覚え、幸せを感じ、生きる力を湧き起こします。
  そして、また美を求めます。
  人の美への欲求は限りなく、かつてより、人は自ら美を作り出そうとしてきました。その視覚的・空間的な表現は、自然を模倣することに始まりました。 やがて、対象やテーマの本質のみを取り出して視覚化しようとする抽象芸術に向かいました。更に、より自由な表現方法で次々と新しいアートが生まれました。現代にいたって、美の解釈は自然から乖離したとさえいわれます。
  斬新な表現は、珍しいものへの驚きと刺激に、人を愉しませる価値があります。しかし、安らぎを覚え、幸せを感じ、生きる力を湧き起こす「美」はまた異なるものと思います。
  平凡非凡に関わらず、普遍的な「美」を感じさせる作品には、どこか自然の趣きを感じます。それはとりもなおさず、美の原点が自然にあるためなのです。

珊瑚の解釈

  生命の体温を感じ、躍動感を持ち、硬く、つやつやと柔らかい光を放つ。
  珊瑚には、自然の美が凝縮されています。
  深く赤い珊瑚は、動物の生命を支える血液を想起させます。うすい桃色珊瑚は西洋では天使の肌と呼ばれるように、けがれの無い無垢な肌を思わせます。珊瑚の枝分かれした様子は樹木に似ていて、河の分岐にも似ています。珊瑚の硬い材質やつややかな感触に、古く石や鉱物の一種と分類した記録もあります。
  動物、植物、鉱物、山、河、海、波、風、空気、水、光、影。
  それらを秩序づけている自然の摂理。
  珊瑚は、その全てを抽象的に視覚化した、自然が創り上げた美の芸術です。

銀の解釈

  滑らかな表面を、磨き上げれば鏡のように周囲を映し、凹凸のある表面に、銀は光をくっきりさせて輝きます。使い込むほど人の肌にしっとり馴染み、次第に風格ある光沢を放ち始めます。
  銀はとても豊かな表情をもつ金属です。
  その白い光と豊かな光沢から、人は古くから夜空に浮かぶ月を連想してきました。自ら光を発することなく、太陽を受けて照る月は、光の少なかった古い時代から人の心をロマンチックにしてきました。自然の風流を愛する日本人にとっても、月は親しみ深い存在として和歌や文学にしたためられてきました。
  月が人の心を映していつも趣きを変えるように、銀にもいろいろな表情があります。銀は人の心の深いところに通じる妙趣に溢れています。

金の解釈

  金を意味するラテン語Aurumは、ヘブライ語で光を意味するOrに語源をもちます。金は科学的に腐食しにくく、いつまでも黄色い輝きを保ちます。その輝きは、人の目に、金が自ら光を発しているかのように映りました。古い時代、金は太陽に深い関係のあるものと考えられていました。当時、人の生活に光をもたらすものは炎か太陽しかなかったからでしょう。
  太陽は毎日変わらず世界を照らし、この世の命に生きる力を与えてきました。人も、動物も植物も、光によって目を覚まし、光を浴びて身をつくり、生をつないできたのです。
  人はこの生命をはぐくむ太陽を神として崇め、地に降り注いだ光が結晶したような、きらきら輝く金を大切にしてきました。
  芸術やジュエリーに取り込まれた金は、光のモチーフとなって作品に暖かい光彩を与えます。

真珠の解釈

  真珠は珊瑚同様に生物由来の宝石で、その清楚で柔和な輝きが珊瑚の風合いとよく調和するため、珊瑚彫金に積極的に取り込まれます。
  水と空気を包んだように、深みがあり、虹色がかった白や黒の真珠は、気泡、水玉、涙、露などの魅力的なモチーフとなります。
  白い真珠は全体の印象を軽やかにし、黒い真珠は全体の印象を厳かな気品のあるものにします。

彫刻の解釈

  職人の熟練された技術によって生み出された珊瑚の彫りものは、伝統と文化を現在に伝える大切な素材です。日本では、江戸時代の彫刻師が珊瑚を扱うようになったため、観音像・七福神などの神像・仏像、菊、牡丹(ぼたん)、椿(つばき)等の花、鯉(こい)等の魚がよくモチーフとされ、立体的な彫刻が多くみられます。イタリアでは、シェルカメオの職人が珊瑚を扱うようになったため、伝統的な絵柄である少女の横顔や天使が浮かし彫りされているものが多くみられます。代々の職人は珊瑚素材の性質からモチーフのデッサン、彫りの技術まで見習うように伝えてきました。そのため、彫り出された絵や形にはその国の文化が色濃く映し出されています。
  こうした彫りものには、素材の色やテクスチャの美しさに加えて、伝統的な絵柄、形の美しさ、また、職人の技と努力への共感が人を魅了します。

彫金の解釈

  彫金は、人に知性と気品を感じさせ、個性を表します。
  自然の中の金属は、様々な鉱物や岩石に混じって多くの不純物を含みます。 人は自然の鉱石から、元素を抽出して地金を作ります。金属が緊張感を感じさせるのは、こうした人工物だからでしょう。
  これを延ばしたり、削ったり、溶かしたりして創るものが彫金(や鋳金)です。想像力と器用さで、人が手で触れて努力によって創り上げます。科学と機械の産物に人の心が入ります。彫金は、人の知能と巧みさで心を結晶したものです。

デザインの解釈

  珊瑚がジュエリーになったとき、珊瑚の魅力が活き活きと輝く姿を思い描くことが、珊瑚彫金のデザインです。
  珊瑚彫金のデザインは、おもに珊瑚自体に着想を得ます。 1つまたは複数の珊瑚の塊を眺め、手に触れ、珊瑚が訴えるものを感じます。そのメッセージと自然の美しさが、鮮明に表れるように、身につける人を想いながら珊瑚彫金はデザインされます。

製作工程

  サンゴの魅力を引き出すため、サンゴ彫金は主にワックスによる鋳金によって制作されます。この技法では、金属の厚みを多様に調整でき、サンゴの有機的な形状を優しく包み込むように、複雑な曲線をスムースに作ることができるからです。ワックスを植物や昆虫、動物に形づくり、装飾的なモチーフとすることもあります。また、蜜蝋(みつろう)という特殊なワックスを使えば、表面に繊維状の流麗な線を浮び出し、偶然的に生まれた勢いのある形ができるため、ダイナミックなイメージを表現することができます。
  金属は、性質上サンゴと対照的な印象を与えます。しかし、このように幅広い形状の表現を可能にするワックスによって、その形とテクスチャは自在に形づくられます。おだやかで暖かいサンゴの美は、この人が生み出した金属の造形に包まれたとき、その印象のコントラストのため鮮明に輝きはじめます。

1.大型のサンゴネクレスを銀で制作します。モチーフにかずら(葛)を用いてイメージをデッサンします。

2.素材を選びます。左:赤さんご大型ルース、上:赤珊瑚6ミリ片穴玉、下:赤さんご6連(4ミリ)ネクレス

3.作品の原型を制作するための工具とワックス(パラフィンワックス、ワイヤーワックス)


4.珊瑚のルースのうえにワックスを組み立てていきます。同時に、モチーフの葉なども作ります。

5.出来上がりをイメージしながら、活き活きとしたデザインにまとめます。

6.赤玉をバランスよく取り付けるための芯を立てます。ワックスの組み立てはこれで終了です。


7.組み立てたワックスをゴム台に取り付けます。

8.ゴム台にリング(鉄の枠)を被せ、埋没材(石膏)を流し込みます。

9.リングを電気炉によって約700度で4時間程度焼くことによって埋没されたワックスを完全に焼却します。


10.電気炉から取り出した高温のリングを遠心鋳造機にセットし、溶解した地金(銀)をリング内の空洞へ流し込みます。

11.石膏を取り除き、銀の原形を取り出します。

12.銀の原形をリュウターやヤスリ等で丁寧に磨き上げます。


13.高速研磨機やバフなどで光沢をだします。

14.石留めをしながら、バランスを再度確認します。

15.以上で完成です。
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